2013年1月20日お昼頃
朝日新聞 松本龍三郎記者より電話が入る
『報道各社は海外通信社からの情報として、「日本人9人が殺された」という報道をしています。恐らく信憑性は高いと思われます。この報道を受けてだと思いますが今夜12時から官房長官の会見が行われます。NHKで中継される可能性が高いので準備しておいてください。そこで、何らかの発表がある可能性が極めて高いです。初めて犠牲者の名前が出てくる可能性もあります。名前が公表された際、しっかりしたプロフィールがないとマスコミは叔父さんのことをめちゃくちゃなプロフィールで紹介します。それは叔父さんの名誉のためにもよくありません。これは私からのお願いなのですが、叔父さんを綺麗なプロフィールでご紹介したいので、しっかりしたプロフィールをいただけないでしょうか。原稿案を後ほどメールします。』
結局、この日は菅官房長官の記者会見において安否情報の発表はありませんでした。
2013年1月21日19時22分
松本記者より原稿案のメールが届く
政府から公式に実名が公表された場合というのを前提に返答しました。
2013年1月21日23時00分
日揮より叔父の死亡確認の連絡が入る。
2013年1月21日23時10分
松本記者より電話が入り、叔父の死亡確認の連絡が入ったことを伝える。
2013年1月21日23時30分
菅官房長官が記者会見にて「名前の公表でありますけどもご家族や会社の方々の関係もありますので控えさせていただきます。」と政府としては犠牲者の氏名は公表しないと明言。
2013年1月22日1時9分
実名は公表されないということでホッとしてベッドに横になっていたところ
突然、朝日新聞 松本記者よりメールが届く。「ご確認願います。」
松本記者:「こちらの写真で宜しいでしょうか?」
私:「ちょっと待ってください。菅官房長官は犠牲者の名前は公表しないと言ってくれました。私たち遺族をマスコミから守ってくれたのです。このタイミングで実名と写真を公表するのはおかしい。政府が実名を公表したのでしたら、それは私たちには仕方がないこと、その際にめちゃくちゃなプロフィールが書かれるというので、政府より実名が出された場合というのを前提にプロフィールを渡したのです。母親はいま心労で憔悴しきって寝込んでいます。いとこたちは父親の死を受け入れるので精一杯です。今このタイミングで名前が出るのはうちだけでメディア・スクラムが集中するのは目に見えている。私はいとこや両親を守らなければならない立場なのに、傷付けることになる。本当にお願いですから実名報道だけはやめてください。」と31分間切実に何度も何度もお願いしました。
松本記者:「もう犠牲者の名前は報道各社は知っています。おそらく明日、他のマスコミはいいかげんなプロフィールを公開します。私は叔父さんの名誉のためにしっかりしたプロフィールを出したいのです。」
私:「それでも絶対に実名公表は認めません。約束が違います。」
松本記者:「すみません、私の説明不足でした。約束について認識の違いがあったのかもしれません。」
私:「政府が公式に実名を公表するまではプロフィールも写真も記事にすることは許しません。」
松本記者:「ちょっと私、頭に血が上っているので、頭を冷やしてきてもいいですか?」
といって電話を切る。
2013年1月22日2時32分
松本記者は一回のコールで電話を切り、不在着信に。
すぐに私から掛け直す。
松本記者:「すみません、結論から言いますと載せました。なんとかデジタルの方は写真と名前は消しました。私にできることはそこまでです。叔父さんを貶めるようなことは書いておりません。」
参考記事:朝日新聞記者行動基準
取材方法
【情報源の明示と秘匿】
7.情報提供者に対して、情報源の秘匿を約束したとき、または秘匿を前提に情報提供を受けたとき、それを守ることは、報道に携わる者の基本的な倫理である。秘匿が解除されるのは、原則として情報提供者が同意した場合だけである。
【オフレコ取材】
8.報じないことに同意したうえで取材をする、いわゆるオフレコ(オフ・ザ・レコード)を安易に約束しない。約束した場合でも、発言内容を報道する社会的意義が大きいと判断したときは、その取材相手と交渉し、オフレコを解除するよう努める。
私:「もう何を言っても変わらないでしたら、電話を切らせていただきます。」
というやりとりでした。
皆さんのご意見を聞かせてください。
朝日新聞デジタルの記事
※朝刊紙面では実名を出したが、デジタルでは「男性エンジニア」と匿名になっている。
※朝日新聞1月22日朝刊39面の叔父の年齢66歳は誤報です。(正確には64歳)
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